440 優しいフィルター

水面は街を映し出す。
流れのある水面は穏やかで波立たない湖面のようにはいかないけれど、揺れながらも街の姿を映し出す。映し出された街並みは歪んでいたり波打っていたり、ちょっとリアリティに欠けるような気がする。でもそれは水面の優しさかもしれない。汚れた空気は澄んで見えて、弱った枯木はそんな様子もぼやけてしまう。悪く言うと誤魔化されていると取れなくもないけれど、水面の“優しいフィルター”が掛かった景色を見ていると誤魔化されてもいいかなと思ってしまう。
一方ではリアリティに欠ける景色を見てキレイだと思う自分を認めない僕がいる。他方ではたとえリアリティに欠ける景色であっても虚飾ではないと感じる僕もいる。
詐欺とは違う悪気のない優しい誤魔化しは、“愛の鞭”のように相反する要素が絡み合うちょっと複雑なモノ。常日頃シンプルゆえに惹かれ易い僕だけど、たまにこうした一筋縄でいかないものにも惹かれることがある。