432 ストーリーとBGM

カウンターには幾つものストーリーが溢れている。
一枚のテーブルを挟んで客と店員という立場は、明確に境界線で分断されているけれどそこに見えない壁が現れたり消えたりする。店員はカメラマンの立ち位置に似ている。求められれば会話を交わし相槌を打ち、時に諭す。望まれなければ存在を消しグラスを拭いて作業をする。ここが大事だ。作業をしていないと何かアクションを待っているように思われて、余計な気を使わせてしまうからだ。
カウンターのこちら側でも客同士で幾つもの関係性が生まれてくる。
お酒を愉しみたい人、なんとなく独りで時間を過ごしたい人、逆に独りで家に帰りたくないから足を運ぶ人などその思いは様々だ。そんな人たちは数ある選択肢から自分の身の置き方を選ぶことはできるけれど、お店の中のカウンターの前に居るということは共有する。つながりはあるようでない。共通点もあるようでない。空間と時間を共有するけれど時にひどく孤独で、時にひどく身近に感じて救われる。このギャンブル的な“時に・・・”という曖昧な選択肢がいいんじゃないかと思う。