353 見聞と観聴（造語）

足元に目をやると敷き詰められた石は太陽に照らされて眩しいくらいに光っていた。それというのも雨上がりだからだ。まだ表面が雨水で濡れている地面からはひとつひとつの石が太陽の光を呼び寄せているかのような声が聴こえてくる。その声はやはり多くの大人には聞こえないようだ。足早に動かすその足取りを止めて、目線を落としひと呼吸おく。たったこれだけのことで、見えなかったものが観え、聞こえなかったものが聴こえてくる。僕も同じことを実践しカメラを構える。
すると隣り同士で競い合っている騒がしい声が聴こえてきた。皆、少しでも多くの光を集めて反射しようと躍起になっている。眼を細めながらレンズ越しに白く光る石を撮影しようとすると、方々から撮ってくれと声が掛かり始めた。これだけいっぺんに話し掛けられたのは初めてだったので少々戸惑ったけれど、悪い気分はしない。声が飛び交う中、艶のある石だけ撮るぞとひと声掛けると一瞬、静まってすぐにざわつき始めた。話しを聞いてくれない生徒を前にした小学校の教室の先生のような気分になった。会話がしたくてもできないという初めての状況でシャッターを切った。後になって写真を見返しても聞き取れなかった騒音のような声が聴こえてきそうだ。