190 物語るモノ

かなりの年数を経ていると思われるアパートの入口に、同じくいかにも古そうな集合ポストが備え付けてあった。横長のそれは手作りのようで、釘を打ち込む位置が等間隔に揃っていないのがひと目でわかる。ペンキで塗った後の塗り残しのような擦（かす）れも目に付く。部屋が空いているのか壊れていて使えないのか定かではないけど、ガムテープで口を塞（ふさ）がれた部分もある。おそらく20～30年前の建物であろうから塀の高さも低く、そのおかげでポストの高さにはちょうどいいようだ。


一見するとただの古びたポストだけど、この手作りポストからは大家さんの人柄やアパートの雰囲気が伝わってくる。きっと日曜大工が好きで部屋の中にも手作りの棚やイスなどあって、家族からはそれ以上は作らないでという要望が出ていたのに違いない。自分宛でもないのに郵便局の配達を心待ちにして投函された手紙を自分の手作りポストから取り出して、わざわざ各住人のドアの下から投げ入れたり手渡しに行ったかもしれない。
そんな想像が次々と思い浮かぶのもこの古びて壊れかけの、でも味があって存在感のある手作りポストのせいなのだ。